石川達也杜氏が、スパークリングに初めて挑む。

月の井酒造店の石川達也杜氏が、スパークリング清酒造りに初挑戦します。酒質設計をせずに酒を造る月の井酒造店では、もちろんこのスパークリングも醗酵を全うさせ、この時、大洗の月の井でしか生まれないスパークリングを造ります。どんな酒になるか、私たちにもわからないし、とてもワクワクしています。

茨城県大洗町 月の井酒造店

はじめまして。私たち月の井酒造店は茨城県の大洗町にある酒蔵です。大洗町は茨城県の中東部、太平洋に面した漁師町です。幕末の1865年創業で、150年以上にわたって大洗で酒造りを続けています。

私たちは酒を授かりものだと考えています。その年その時その場所でしか造れない酒。だから私たちは酒質設計（どんな酒質に仕上げるか）をしません。冷蔵をして醗酵をコントロールすることもせず、微生物が醗酵しきるまで見守り続けます。ですから、当然毎年出来上がるお酒はちがった味わいがあり、ひとつとして同じ酒は造れない。それこそが大洗という土地に授かる酒造りなのです。

今回のスパークリングも、もちろん酒質設計はしていません。初めての挑戦なので、ちゃんと発泡するかさえわかりません。どんな酒になろうと、それが私たちが今年授かったスパークリング。ただ、これまでにない、唯一無二の酒になる。その自信はゆるぎないので、ぜひ楽しみにしていてください。

月の井酒造店オフィシャルサイト
https://tsukinoi.co.jp/

石川達也杜氏からのメッセージ

スパークリング（発泡）清酒に想いは巡る

学生時代、お世話になっていた焼鳥屋さんでのこと。当時の焼鳥屋としては珍しく良質なワインなども扱っていたお店で、アルバイトの私もいろいろなお酒を飲ませてもらったが、その中にはシャンパーニュなどのスパークリングワインもあった。そのお店の大将は、スパークリングワインと言ってもワインなのだから、炭酸に依存してはいけない、という考えをお持ちだった。そこで、スパークリングワインをマドラーで撹拌してガスを抜き、スティルワイン（非発泡性ワイン）としてもおいしく飲めるかどうかという実験をたまにしていた。少し乱暴なやり方かもしれないが、そうすることで、そのお酒の本質が実によくわかる。炭酸がなくても素晴らしいワインだと感心するものもあれば、炭酸がなければ腰が砕けてしまい、ガスで誤魔化しているかのように感じるものもある。良い経験をさせてもらったと思う。

日本酒にも、いろいろなバリエーションがある。たとえば、にごり酒や樽酒、そして発泡清酒。それらとて、煎じ詰めれば清酒である。したがって、にごり酒の滓、樽酒の樽香、発泡清酒の炭酸ガスは、その清酒という土台（本質）の上に乗っかっているものであり、それらが本質ではないのだ。

世界で通用するようなスパークリングを造りたい！という蔵元の願いを聞いて想起したのは、以上のようなことである。つまり、もし一流のスパークリングワインにも引けを取らない発泡清酒を造ろうとするなら、まずは土台となる酒造りが問われる。「味わいスッキリ。ちょっと酸味を効かせて、香りは華やか」といったよくある酒質では、飲みやすくはあっても、お酒としての高い評価は得られまい。炭酸がなくても「これは！」と感じてもらえるようでなければ。

まずは、泡に頼らない、きっちり醗酵しきらせたお酒を造ることを目指そうと考えた。とは言え、これまで造ってきたのと同様のお酒にただ炭酸が含まれているというのでは、「これぞ日本のスパークリング！」と感じてもらえるかは疑問である。なぜかと言えば、炭酸が加わることによって味覚が影響を受ける（変化する）からだ。

炭酸によって、酸味は強く、甘味は弱く感じるようになる。つまり、シュワシュワと甘酸っぱいのは、炭酸を抜けば、かなり甘味が強いということになる。甘味が悪いわけではないものの、そういうお酒は、食中酒には向かない。

醗酵しきらせると甘味は減少し、さらに炭酸によって甘さを感じにくくなるが、甘味よりも酒としての旨味がしっかりあれば、炭酸とのバランスが取れ、食事とも合うはずである。そこで、日本酒本来の特徴である麹をたっぷり使うことにし、その造り方も、伝統的な蓋麹法を採用した。

また、炭酸が含まれていると、チビチビ飲むよりも、やはり少しスピーディに飲みがちになる。つまり、そういうお酒で度数が高いと、酔いが早く回ってしまうので、少しアルコール度数を下げたい。しかし、最初からアルコール分低めを狙っては、醗酵が中途半端になりやすい。醗酵を全うさせるとなると、アルコール度数は高めになる可能性が高いので、度数を下げるためには、かなりの追水（あるいは、搾ってからの割水）をする必要がある。水をたくさん加えても、水っぽくも薄っぺらにもならないようにするには、原酒の骨格がよほどしっかりしていないといけない。そう考えたら、この発泡清酒の製法としては、緩衝力（かんしょうりょく＝成分や刺激を和らげたりまとめたりする力）が圧倒的に強くなる生酛しかないという結論に達した。

要するに、蓋麹と生酛という日本の伝統の粋とも言える製法によって、発泡清酒に挑戦することにしたのである。

発泡清酒の製造方法は、主に二つある。ひとつは、二次醗酵を起こさせる方法（「ナチュラルカーボネーション」）。もうひとつは、炭酸をお酒に吹き込む（注入する）方法（「強制カーボネーション」、あるいはただ「カーボネーション」）。二次醗酵法は手間がかかり、ガス圧を安定させるのも難しいのだが、もちろん醗酵由来の発泡性にしたいので、迷わず二次醗酵法を選択した。

月の井の生酛は、酵母無添加である。つまり、どんな酵母が増殖・醗酵するのかは、そのとき次第なのだ。また、酒造業界では異端とされているが、醪での冷却（温度制御＝醗酵抑制）も一切しない。そういう造りでは、どういった醗酵をして、どこに着地する（どういう酒質に仕上がる）のか、やってみなければわからない。しかし、それでこそこの大洗という土地、月の井という蔵に授かる酒だと思っている。

二次醗酵のガス圧も、瓶によって多少の強弱があることだろう。それを一定にするには強制カーボネーションのほうが有利なのだが、あくまで自然の醗酵に委ねたい。

まだこのお酒は二次醗酵中なので、完成形がどうなるのかはわからない。もしかしたら、改良点が見つかるかもしれない。それも含めて、酒の造り手としては、あれこれ考えたり、ワクワクしたりさせてもらえて、ありがたく感じている。

またひとつ、酒を造る喜びを味わうことのできた挑戦だが、その喜びがこのお酒の泡とともに飲む人の口中で弾けて伝わることを祈るばかりである。

株式会社 月の井酒造店
杜氏 石川達也

商品概要

和の月生酛スパークリング
生酛造り／蓋麹法
純米吟醸（精米歩合60%）
美山錦（茨城県産有機米）
内容量：500ml

リターンについて

「和の月生酛スパークリング」だけでなく、非売品の原酒や極少量生産の大吟醸、大洗産の酒の肴とのセットなど、月の井酒造店と大洗を堪能していただけるリターンをご用意しました。

さらには、石川達也杜氏の案内で酒蔵を見学していだき、ご一緒に晩酌をさせていただく企画など、このMakuakeでしかご案内していない企画ですので、ぜひご検討ください！