熟成酒は生酒と異なり常温保存ができるため、自宅で飲む方にとっても相性抜群。サステナビリティの意識が高まっている現代、冷蔵庫の場所を気にせず長期保存することができます。

なぜ日本酒を熟成するのか

日本酒を熟成することは古くからある文化なのですが、現代は熟成よりも「季節限定ボトル」や「生酒のフレッシュさ」をアピールすることがブームになっています。季節性やフレッシュさを打ち出すことは、消費者にとって購買のきっかけとなるコミュニケーションだとは思うのですが、現在はそれに偏りすぎている印象があります。

ワインセラー（※）の天然冷蔵庫を見学して感じたのは、心地よい湿度と気温、そして静寂さ。とても神秘的な空間でした。ゆっくりと時を刻むような、穏やかな気の流れに癒されました。トンネルをセラーにした背景や、コンセプトを聞いたとき、「日本酒が忘れてしまったもの」がここにある気がしました。「時間をかけてお酒の飲み頃を待つ」をトンネルに実際に入って空気に触れ、お酒の味わいの深みを楽しむことを知ってもらうには最適な場所だと感じました。

※浜松ワインセラーとは
浜松ワインセラーは全長1170mの未成線トンネルを再利用した100％天然のレンタルワインセラー。かつて遠州地方と長野県南信地方を鉄道でつなぐ構想があったが計画は頓挫。しかし地元そば店店主の山本六二郎さんを中心に「夏涼しく、冬は暖かく、湿度が高く保たれた空間」がワインセラーとして最適だと、トンネルをワインセラーに改良した。

https://www.winecellar-japan.com/

静岡の日本酒の魅力とは

静岡酒は香りや主張が控えめながらも、清々しく柔らかく上品な飲み口が多いのが魅力です。静岡県は海と山に囲まれ、富士山、南アルプスなどの山々から、酒造りに適した豊かで清らかな伏流水や大小の河川からの恵みを受けているため、味にキレと深みがあるのが特徴。

静岡の日本酒蔵のスタンダードとなる普通酒や本醸造酒は、全国的にみても、お手頃な価格ながら日本酒の質が非常に高いと、飲食店・消費者の皆さまからも評価を得ています。「大地の恵みが豊かな静岡の食材と静岡のお酒をもっと多くの方に知って欲しい！」と思っています。

お酒の紹介

英君（ウイスキー樽）

静岡市清水区由比にある英君酒造。

英君酒造では熟成酒の商品ラインナップが「KOHAKU」「サンロック」その中でもサンロック（アルコール度数36度と高濃度なので酒税法上リキュールの部類）は海外でも高い評価を得ています。今回、ウィスキー樽に貯蔵するために選んだお酒は、兵庫県産の「渡船」という酒造好適米・静岡酵母HD-101を使った純米大吟醸酒。「渡船」は、同じく酒造好適米の「雄町」の優良系統を選抜して育てたものと言われています。

一時は栽培が途絶えていたものの、近年、復活栽培に成功。その希少価値に加え、香味の良さが評判。パイナップルのような芳香と、透明感のある軽快な甘み、キュッと引き締まる酸、キリリと清々しい苦みがどのように変化するのか楽しみです。

英君（山廃愛山）

山廃とは、日本酒造りの重要な工程のひとつ、酒母（しゅぼ）造りの技法のことで、伝統的な造りの１つで、「生酛（きもと）造り」から派生したもの。その手法を使い、65％精米の兵庫県産の「愛山」で仕込まれた純米酒。出来上がった「愛山ノ山廃」は、蔵からの出荷時には瓶詰めされ低温にて半年ほど熟成しています。

もともとのお酒の味わいは＜冷やして～常温＞だと、スマート＆シャープな味わい。ビターなキレが鮮やかな、辛口な味わいです。＜40℃前後＞だと、ナッツのような熟成の香りにクリーミーなニュアンスがします。ワインセラーにて約1年15度～17度の温度帯で熟成し、シャープさが「まろやかさ」になり、複雑な味わいとともに出てくる香りも楽しみです。

開運（ワイン樽）

静岡県掛川市にある土井酒造場。平安時代は貴族の装束として、そして明治以降はその美しさで世界中の富豪、要人たちに愛された葛布。そんな歴史ある葛布が現在でも城下町である掛川には残っています。

今回、ブルゴーニュの赤ワインのオーク樽に貯蔵するために選んだお酒は葛布の原料となる葛の花という花酵母で造ったお酒。熟成期間は約1か月半ほどとなりました。先にできたお酒をフレンチ、イタリアン、和食のシェフ達に味を見て頂いたところ、高い評価を頂きました。（某シェフからは、白ワインの王様ピュレニー・モンラッシェを連想させる香りも！と評判です。）少しだけ色味がついています。

もともと、上品な酸とキレのあるお酒ですが、赤ワインの果実香と酸、ほんのり樽の香りが加わり、飲んだ後の余韻を感じる奥行きのある味わいに。香りも果実香から温度が少し上がると、ナッツ系の深み。前菜～メイン、魚介～肉・ジビエ、和食、洋食、エスニックなど合わせる食事によって、表情が変わり、幅広く楽しめる新感覚の日本酒です。

小夜衣 純米吟醸酒

菊川市の地酒・小夜衣（さよごろも）は、全量純米酒を造る蔵。その名は新古今和歌集や源氏物語に登場する小夜衣（夜着）から取ったと伝わっています。

トンネル内の熟成に向けて通常の流通していないお酒を選んで頂きました。静岡県産の誉富士を麹米として使った55％まで磨いた純米吟醸。協会酵母1401号という金沢酵母ならではの程よい吟醸香と、マスカットを思わすような香り、酸が低く（酸が綺麗で）軽快な飲み口。

保たれた湿度と静寂な環境と15度～17度の温度で1年熟成をしていく中で、酸の味わいの変化や、お酒の余韻、複雑さがより出てくるのでは、と期待しています！

萩錦 生酛酒

静岡県静岡市の安倍川水系のお水を使い、口当たりの柔らかな上質のお酒を醸す萩錦酒造。若手のご夫妻が中心にどんどん酒質が良くなり、技を磨かれている注目のお蔵です。

令和1年度醸造で伝統的な造りの１つで、「生酛（きもと）造り」に初TRYするいう情報をお聞きし、利き酒をさせていただきました。出来上がったお酒のその味にコレは！！と思い、トンネル貯蔵を申し出しました。県内外の酒蔵や杜氏さんに聞きながら試行錯誤で完成したそうです。

一口飲むと、香りは生もとや山廃のお酒らしい酸を感じ、味わいは酸味を最初に強く感じます。それでもとても爽やか！静岡酵母HD―１を使用し原酒ながらもスッキリと飲みやすい辛口。トンネル内の保たれた湿度と静寂な環境と15度～17度の温度で1年熟成をしていく中で、酸の味わいの変化や、生酛ならではのお酒の複雑さがより出てくるはずです。

初亀 純米吟醸

東条山田錦 酒米のグランクリュ（特級畑）とも評される東条産の山田錦を全量使用した、柔らかな酸と程よい旨味が口の中に広がる純米吟醸が、オーク樽の中でどのような進化をとげるのか。 東条地区の土壌は、表層から下層まで一貫してスメクタイトを主とした粘土層。 土壌の保肥力の数値が高く養分が多く含まれている素晴らしい土壌とわれてます。

初亀さんではこのお米と、 南アルプスの伏流水でお酒を醸しています。 米の香り、味わい、酸、余韻のバランスが良く、全体的に滑らかさを感じるお酒になります。長期熟成にも耐えうるお酒になると考えられます。四季折々のお料理を引き立てる、初亀が理想とする静岡流吟醸のクラシックな世界観×ウィスキーオーク樽を是非お楽しみください。

開運（ウイスキー樽）

静岡県掛川市の土井酒造場。ワイン樽に続いて、ウィスキー樽にも協力してもらいました。

ウィスキー樽に熟成させ出来上がりの最終形として、、それにはどういう熟成をさせるべきか、を考える作業として樽の焼き加減なども参考にしています。ウィスキー樽は、空洞部分真ん中にストーブを置いて、内側からすべての板を均等に火で炙っています。焼きの時間によって「ライト」「ミディアム」「ヘヴィ」等の段階で焼き加減を分け、それぞれ「繊細なフレーバーと樽由来のタンニン」「バニラ系の樽香」「トーストにも似た強い香り」などが考えられます。

兵庫県産特Aの山田錦を丁寧に磨いたお米で醸した純米大吟醸。開運の純米大吟醸は、これまで国内外の数々のコンクールでも圧倒的な高い評価を得ています。

気品あるマスクメロンの香りや優しく広がる甘味、やリンゴのような香り。清らかな味わい、洗練された米の旨味に、ウィスキー樽での貯蔵により新たな味の奥行きと未知なる可能性を求めて今回のプロジェクトにご賛同していただきました。

応援コメント

＜開運＞株式会社土井酒造場 土井弥市 社長

透明感あるお酒を目指してつくっている開運のお酒。 ワイン樽やウィスキー樽で時を重ねていくと、お酒のかどがとれて柔らかく丸みのある味わいになっていきます。そして深い甘さや複雑な味、、色や香りの変化など、当社のお酒が、どんな色に染まっていくのか…楽しみです。

＜小夜衣＞森本酒造合資会社 森本均 森本圭祐 社長

H2年、名古屋国税局の酒類鑑評会に熟成酒(商品名：2001年古酒浪漫)のお酒を出品し、入賞に至ったことは、当時大きな話題となりました。周りの出品酒はみな新酒。熟成酒の評価は、非常に難しいが造り手にとっても飲み手にとっても付加価値のあるお酒になる可能性は非常に高いと思います。プロジェクトにより多くの人が興味をもってくれることを期待しています。

＜英君＞英君酒造株式会社 望月裕祐 社長

今回、 愛山山廃純米酒を瓶貯蔵、渡船純米大吟醸をウィスキー樽に熟成をするということですね。特に渡船の方は、もともとスモーキーな香りも少しするので、オーク樽熟成による味の変化、 表情が変わっていく様子が面白いと思います。

＜萩錦＞萩原酒造株式会社 萩原綾乃 杜氏

弊社でもお酒の設計の中で商品ごとに熟成の進み方は常に意識し、保存場所や温度、期間など１つ１つチェックしています。トンネルは非常に魅力的ですね。自社でも、安倍川の伏流水の豊富な井戸水のある環境を活かした熟成方法にチャレンジしたい！ と、アイディアを練っています。

実行者紹介

はじめまして、榛葉冴子（しんばさえこ）と申します。土井酒造場 銘柄“開運”杜氏の妻であり、富士の酒代表として初めて日本酒を知る方から、より美味しい日本酒を探している方まで、お酒との新たな出会いが広がるお手伝いをしています。

＜プロフィール＞
榛葉 冴子（しんば さえこ）

鎌倉生まれ。幼少期から身近にある海や山の食に触れて育つ。酒匠の資格を取るために、土井酒造場の体験実習で酒造りを学ぶ中で、現在は杜氏職を務めるご主人とのご縁に恵まれる。結婚を機に静岡県掛川市に移り住み、出産後、大好きなお酒を仕事にしたいと＜富士の酒＞ブランドを立ち上げ、ECサイトとイベント業を中心に静岡×日本酒のプロデュースを行なっている。

富士の酒：https://fujinosake.com/

Peloli（ペロリ）編集部

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