映画『ローリング』（監督：冨永昌敬）の劇場公開に向けて

はじめまして。冨永と申します。このページを見てくださってありがとうございます。

今年1月に完成した映画『ローリング』は、おかげさまで新宿ケイズシネマ（6/13～）、横浜シネマ・ジャック&ベティ(7/4～)、および大阪第七芸術劇場での劇場公開が決定しました。ありがとうございます。現在、さらに多くの劇場で公開していただけることを目指して諸準備の真っ最中なのですが、そのために必要な配給宣伝費が不足しております。チラシやポスター、パンフレット等の印刷費、広告費、地方の劇場での舞台挨拶に要する旅費宿泊費などがそれに当たります。より多くのみなさんに見ていただくために、ご支援をどうぞよろしくお願い致します。

少々長くなりますが、以下にこの映画のご説明を兼ねてご挨拶をさせていただきます。

～ご挨拶～

いま先生たちが大変なことになっています。今度の事件でもひとりの先生が容疑者に挙げられました。はじめは容疑を否認していた先生ですが、今朝がた犯行を自供したようです。残念です。先生が先生にあるまじき罪を犯したことによって、またひとり、世の中を騒がせる先生が生まれてしまいました。……といっても、これは特定の先生や事件を指しているわけではありません。教師による不祥事があまりにも多くニュースに報じられているので、当てずっぽうに「今度の事件」と言ってみただけです。多くの真面目な先生方にとっては迷惑千万な話でしょうが、「今度の事件」に該当しそうな先生がたくさんいるのは事実なのです。

痴漢した、のぞきをやった、未成年とは知らなかった……そんな言葉によって紹介された容疑者の職業が教師であった場合、世間の好奇の目はなおさら大きく見開かれます。だからこそニュースは教師の不祥事をとりわけ大きく報じるのでしょうが、それにも世間は慣れてしまいました。ましてや学校の中で児童生徒の体を触っておきながら、マッサージのつもりだった、スキンシップのつもりだったと供述するその馬鹿らしさ、幼稚さにはネット上で失笑さえ起こります。先生が生徒に何やってんだ、こんな馬鹿に教師をやらせるな、といった至極まっとうな怒りの声など、もはや当たり前すぎてスレッドに並ぶことも少なくなりました。

こんなニュースを目にするたびに、この先生これからどうするんだろう、と僕は思ってしまいます。もちろん被害女性の不快感、女児が抱いた恐怖を思えば加害教師に同情はできません。しかしいつも想像してしまうのは、自分が子どものころにお世話になった先生がその種の容疑で逮捕された場合のことです。好きだった先生が職を追われ、社会に居場所を失い、家族に見放され、寝ても覚めても気分が晴れず、よからぬ誘いに吸い寄せられ、罪を重ね、やがて人生を転落してゆく……恩師のぶざまな姿を妄想するのは辛いものですが、なぜかこれがやめられません。すでに僕の妄想の中で何名かの恩師が人生のどん底に沈んでいます（先生ごめんなさい）。しかし駄目になってゆくいっぽうだった先生が、ふとしたきっかけで吹っ切れて、心から罪を悔いて、新しい自分を探して返り咲こうとするのを応援したくもなります。やはり先生には立ち直ってほしいのです。こんなにも妄想の中でもてあそぶほどですから、僕は本当に先生が好きなのでしょう。

とはいえ、一度どん底に落ちてしまった人が立ち直るのは教師でなくとも簡単ではありません。残念ながら世間はそれほど優しくないですし、多くの人は失った自信をすぐに取り戻せるほど強くもないからです。もちろん学校に復職するのは無理ですから、先生には別の仕事を探してもらいます。おそらく何をするにもイバラの道を歩くことになるでしょうが、そもそも自業自得なので誰にも文句を言えないし、もはや小さな愚痴を聞いてくれる友人すらいません。神経の細やかな先生だったら、容赦なく向けられる世間の白い目と孤独に耐えられないと思います。なにしろ彼は先生と呼ばれていた人間です。教え子たちに囲まれ、慕われていたのです。現役時代はさぞや気分がよかったことでしょう。しかし、かつて抱いていた教育者の誇りと自尊心は、いまや亡霊となって彼に憑いてまわるだけで何も満たしてはくれず、あるいはその亡霊がこれからの人生の歩みを妨げる要因ともなりかねないのです。

～映画『ローリング』～

この映画の主人公は、１０年前に女子更衣室を盗撮して以来すっかり落ちぶれてしまった元教師と、彼をどうにか立ち直らせようと手を差し伸べる教え子の青年です。先生にとっては青年と、わけあって自分を頼ってくれている若い恋人だけが心の支えです。しかし困ったことに青年と恋人がお互いに一目惚れしてしまいます。そして困ったことがもうひとつ。不良の教え子たちが先生の負の財産、つまり１０年前に盗撮した動画を先生の家で発見してしまうのです。同級生の女子のひとりにテレビでよく見かけるタレントがいて、先生が盗撮した動画には彼女の裸体ばかりか、予想もしなかった重大な「秘密」が写っていました。大喜びした不良たちはこれを材料に金もうけを企みますが、先生はかつての自分の事件の影響で進学に失敗していた彼らに引け目を感じて、そんな愚策を押さえつけることができません。こうして先生は人生を占う窮地に立たされるというわけです。

ここから先はどうか映画をご覧になっていただいきたいのですが、なんだか、先生がまともに立ち直れそうな気配がないですね。僕はやっぱり自分の先生には常識の範囲内で立ち直ってほしいので、あらすじを書きながら少々辛くなってきました。先生にはどうにか自分を見失わず、気持ちを強く持ってほしいものです。ときには恥を恥とも思わない図太さも生きてゆくためには必要でしょう。しかしだからといってあんまり明るく開き直ってしまったら、本当に反省しているのかどうか疑わしくなってきます。本格的な恥知らずになってしまっては、心ある教え子だって先生から離れてゆくかもしれません。

このように先生たちへの万感の思いを込めた『ローリング』は、主人公の先生が「教え子たちよ、ありがとう。また一からやり直しです」とモノローグに言い残して結末を迎えます。そこに至るまでにどんな出来事があったのか、青年と先生のあいだにどんなやりとりがあったのか。それについてはここに語るべきではなさそうですが、あえて言うなら最後の「やり直しです」という言葉、その無理やり前向きなところが教師の自尊心をあらわしているのではないかと思っています。去年の正月ですが、お世話になった先生たちに２０年ぶりに年賀状を出しました。いただいたお返事の中には、次の映画の公開の際には連絡するように、という嬉しい言葉がありました。先生たちは僕が映画をつくっていることをご存知のようで、楽しみにしている、という応援の言葉もありました。もちろん「次の映画」がどんな内容なのかを知る由もない先生たちです。まさか自分が、教え子の妄想の中で人生のどん底に沈んでいるなど夢にも思わないでしょう。先生たちのおかげで撮ることができた映画です。そして先生と過ごした思い出を持つ多くのみなさんに見ていただきたいと思っています。

～撮影の舞台は茨城県水戸市～

なお、この映画はほとんどすべての場面を茨城県水戸市で撮影しました。水戸には大工町という有名な歓楽街があって、その大工町で映画をつくろうという企画に僕が誘われたのがこの映画の発端でした。僕はこの十年あまり水戸短編映像祭（毎年9月に開催）に関わりを持っていて、つねづね水戸を舞台に映画を撮ってみたいと考えていたので、このお誘いは願ってもないチャンスでした。水戸でどんな映画をつくろうか、水戸にはどんな物語が可能なのか。そんなことを考える日々を送っているうちに、ここに述べているような「先生問題」を映画に描いてみたいと思うようになりました。ご協力いただいた水戸のみなさんへの感謝の気持ちを込めて、水戸市で先行上映をさせていただくことにしています。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

みなさん、劇場公開へ向けてのご支援をどうぞよろしくお願い致します。

～監督～

冨永昌敬（とみながまさのり）

75年愛媛県生まれ。おもな監督作品は『亀虫』(03)、『パビリオン山椒魚』(06)、『コンナオトナノオンナノコ』(07)、『シャーリーの好色人生と転落人生』転落人生篇(08)、『パンドラの匣』(09)、『乱暴と待機』(10)、『庭にお願い』(10)、『目を閉じてギラギラ』(11)、『アトムの足音が聞こえる』(11)など。

『ローリング』2015年/DCP/93分/カラー

公式HP　http://rolling-movie.com

出演：

三浦貴大　　柳英里紗　　川瀬陽太

松浦祐也　礒部泰宏　橋野純平　森レイ子

杉山ひこひこ　西桐玉樹　深谷由梨香　星野かよ

井端珠里　　高川裕也

製作：ぽてんひっと　スタイルジャム　カラーバード　マグネタイズ

製作プロダクション：ぽてんひっと

制作協力：シネマパンチ

配給：マグネタイズ

配給協力：プロダクション花城　

宣伝：カプリコンフィルム

(Ｃ)2015「ローリング」製作委員会

先行イベント上映 (水戸市)

5/23（土）、24（日）、30（土）、31（日）

大工町club VOICE　http://www.voice-mito.com/#top

6/13（土）より

新宿ケイズシネマ　http://www.ks-cinema.com

7/4（土）より

横浜シネマ・ジャック&ベティ  http://www.jackandbetty.net

7月以降全国順次公開

大阪第七芸術劇場　http://www.nanagei.com