皆さま、はじめまして─

今春から愛知県の酒蔵「水谷酒造」と農家「アグリ:サポート」に就職して日本酒と米を造ることになった、後藤実和と申します。

私はつい先日までは名城大学農学部の4年生でした。コロナ禍での就職活動中に、この2社に初めて出会いました。就職を決めて、酒造りの手伝いとして入って一冬を過ごした今、私が思うのは「人生をかけて日本酒造りを学びたい、ここで美味しいお酒を造りたい」ということ、そして「一人でも多くの人に日本酒の面白さと水谷酒造の醸すお酒を知っていただきたい」ということです。

今回は、私が就職を決めた場所で生きる方たちと、これからの私たち自身についてお伝えしたいと思います。

1．水谷酒造、一人での酒造り

水谷酒造は、愛知県愛西市にある江戸時代末期から続く小さな酒蔵です。

現在の社員は、5代目蔵元・水谷政夫さんのみ。昔はこの蔵で造ったお酒を大手酒造会社に売るいわゆる「桶売り」を続けていましたが、平成10年に取引を停止しました。それまで一緒に酒造りをしてきた杜氏や蔵人たちは、高齢なこともあり酒造業を引退して、その後は水谷さん1人で酒造りを行っていくことになりました。

跡取りのいない水谷さんは当時、自分の代で蔵をたたむことを考えていました。5代続いた酒蔵の悔いがない幕引きを模索していた時に「酒蔵のたたみ方も色々ある。ならば、支えてくれた多くの人たちや世の中が楽しくなるような役に立つことがしたい」と考え直しました。そのような思いから、酒造りを通して様々な人たちといろいろな取り組みを行ってきました。

２．「世の中の役に立つことがしたい」から広がった繋がり

酒造りをしながら役に立つことを模索していたときに、出会った人たちの中から酒造りを手伝ってくれる人たちが現れて、蔵に水谷さん以外の人の姿が増えていきました。

水谷さんを11年間手伝っている一久さんは、本職がお坊さん。私と一緒に作業をする中で、こんな話をしてくれました。

「美味しい！と思った日本酒は水谷さんのお酒が初めて。水谷さんの造る日本酒が好きで、純米吟醸が一番好きです」と。

水谷酒造を支えてくれる人は他にも大勢いて、水谷さんが以前雑誌の取材を受けた時に「お手伝いの人も含めて水谷酒造で働いている人数を教えてください」と聞かれ、「お手伝いの方も含めたら…50人くらいですかね」と答えたそうです。小さな蔵なのに紙面には『社員：50人』と載ったと笑いながら話をしてくれました。それくらい多くの人に支えられて、現在の水谷酒造があります。

３．米づくり農家と共に造り上げたお酒、「千瓢 奏」

2015年、愛知県産の酒造好適米「夢吟香」を使って、美味しい純米大吟醸酒を目指そうと「米づくりと酒づくり食育体験」プロジェクトを立ち上げました。

「夢吟香」は、「山田錦」に匹敵する愛知県産の酒米として開発されました。当時は、この米も水谷酒造もあまり認知されていませんでしたので、両方の魅力をより多くの人に知ってもらいたいと考えたことが、プロジェクト始動のきっかけです。

水谷さんと一緒にプロジェクトを立ち上げ、夢吟香を育ててくれたのが、愛知県の農家アグリ：サポートの取締役・立松豊大さんでした。食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身に付ける「食育」を大切にする立松さんは、米の田植えや稲刈りに一般の方が参加するイベントを主催しています。

水谷さんは、酒造りに一般の消費者の方にも参加を呼びかけ、米に触れて、その大変さ奥深さを体験してもらっています。

大勢の人が協力して1つの音楽を奏でるオーケストラのように、プロジェクトの参加者と一緒につくり上げたお酒という思いを込めて、できたお酒に「千瓢 奏」と命名しました。

このお酒は、立松さんの妥協を許さない上質な米づくりのおかげで、高品質の酒を追求できました。当時の夢吟香ではあまり行われていなかった精米歩合40%の高精米を実施。米の選別に使う網目を大きいものにして、小さな米を取り除き、大きさの揃った大粒の米を使うことにしました。また、米のタンパク質含有量が少なくなるよう栽培方法を試行錯誤して、アミノ酸量を抑えた淡麗な味わいの日本酒を造ることに成功しています。

４．新たな蔵人と、新たな純米大吟醸雫取りの誕生

今年度は、新たな挑戦をしました。「奏」のもろみを酒袋という布袋に入れて吊るし、無理な圧力をかけずに滴り落ちるお酒を取るという雫取りです。

お酒に無理な圧力がかからない分、綺麗なお酒になると言われている搾り方で、水谷酒造の酒質には持って来いの手法です。しかし、酒袋の取り付け作業は重労働ですし、お酒の酸化を防ぐために搾れたらすぐに瓶に取っていきますので、長い時間つきっきりになり水谷さん一人ではとても行えなかった方法です。

今冬、その造りに挑戦したきっかけは、今年度から新たにアグリ：サポートと水谷酒造の一員となる私・後藤の提案でした。

「水谷さんのお酒の味わいなら、他のお酒も雫取りでとればもっと綺麗で美味しいお酒になるんだろうなぁと思ったのですが、この手法は手間がかかる大変な方法なので、ダメもとで相談してみました」と。そうしたら「今年は酒造りに携わる人も増えたし、せっかくだからやってみようか」と快諾してもらえました。アイデア自体は、以前から水谷さんの頭の中にもあったようですが、人手が足りず、実際にはできずにいました。

今回この手法で搾った「奏」は、より丁寧な造りを目指しました。

雫取り以外にも、米粒が割れないよう低温の水でゆっくりと優しく洗う手洗米、サーマルタンクなどの設備はなくても小さな仕込みだからこそできる知恵を絞った繊細なもろみの温度管理を行い、搾ったお酒はより綺麗で柔らかな酒質となりました。

５．“これまで”を守り、“これから”へ繋いでいく

私が水谷酒造を選んだ理由は、水谷さんの人柄に魅力を感じたからです。水谷酒造は人が集まる場であり、様々な人が繋がっていきます。そのような空間をつくる水谷さんという方にとても魅力を感じていて、この空間を守りたい、つないでいきたいと思っています。

お酒は嗜好品として人間関係を潤滑にし、酒蔵は人と人を繋ぐコミュニティの場にもなると私は思います。日本酒は勢いよく飲めるお酒ではありませんが、ゆったりと心に沁みわたるお酒です。私は気分で色々なお酒を飲みますが、ふとした時に戻っていきたいお酒があります。それは一口目の印象は目立たなくても、何口飲んでも飲み飽きず気持ちよく飲んでいられる優しいお酒です。水谷酒造のお酒はまさにそんなお酒です。

だからこそ、このようなお酒を造ることができる水谷さんから日本酒造りの技術や考え方を学び、受け継いでいきたいと思っています。

現代は情報の流れる速さがとても早く、新しいものが生まれてはすぐ消えていきます。その中で、変わらずに水谷酒造を支え、そのお酒を好きでいてくれる人を大切に、水谷さんは変わらない「水谷酒造の日本酒」を醸し続けてきました。

これからの水谷酒造は、日本酒に対する愛情と熱意ある新たな仲間たちを迎えて、今まで叶えられなかったことにどんどん挑戦していきます！その第一歩である「千瓢 奏 雫取り」や水谷酒造のお酒たちを、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。

『千瓢 奏』の商品詳細

●水谷酒造とアグリ：サポートが共に造った日本酒『千瓢 奏』は、ほのかな吟香とやさしいスッキリとした味わいの純米大吟醸酒です。

●愛知県産の酒米「夢吟香」とFIA3（愛知県酵母）を使用し、愛知の酒蔵で醸した、地元に根付いたお酒です。

●アグリ：サポートと水谷酒造が、幅広い年代の一般の方に酒米と酒造りを知っていただく「米づくりと酒づくり食育体験」プロジェクトから生まれたお酒です。

●今回のメイン商品である「千瓢 奏 純米大吟醸雫取り」はMakuakeでしか買えない新発売商品です。

●冷やしてお飲みいただくとより一層味がひきたちます。セロリの浅漬けなど軽いおつまみにも良く合うのでお勧めです。

水谷酒造の歴史

「千瓢」というブランドは、戦国時代に日本統一を果たした郷土の英雄「豊臣秀吉」の馬印が千生瓢箪だったことに由来します。150年あまりの歴史があり、現在でも酒蔵の一部は、創業当時の建物です。

木曽、長良、揖斐の木曽三川の清流からの豊かで良質な伏流水、濃尾平野で穫れる良質な原料米、そして冬には“伊吹おろし”と呼ばれる伊吹山からの風が吹き降りるために冷えることなど、酒造りに適した条件がそろっています。

最後になりますが、水谷酒造のお酒を手に取っていただいた皆さまに喜んでいただけるよう、誠心誠意対応してまいります。応援の程、どうぞよろしくお願いいたします。