はじめまして、レザーメーカー毎日皮革の曽根と申します。
今回は必要最小限の収納力にとどまることで壊れにくさを追究した革製品「It's/Kit（イッツキット）」をご紹介させていただきます。

みなさんは普段どんなものを持ち歩いていますか？

・お札　・小銭　・クレジットカード　・免許証　・名刺　・Suica　・鍵　・携帯

僕は現金が必要だとわかっている時以外は、携帯とクレジットカードだけ持って出かけます。「もしかしたら要るかもしれない」を持つより軽やかでスッキリした気持ちになれるからです。

・あれもこれも持ち歩きたくない
・余計な機能はいらない
・シンプルに、小さく、軽く

そんな気持ちでIt's/Kitは生まれました。

そして、「シンプルな構造＝壊れにくい」をテーマに革製品の製作工程を見直し、壊れる原因を洗い出すことから始め、耐久度の高い革製品を目指しました。
キャッシュレスと相性の良いシリーズです。

布やビニール・プラスチックなどの素材に比べ、摩耗耐性・引き裂き強度・耐炎性・耐衝撃性など多くの耐久面で優れているはずの革を用いた製品が、他素材とそれほど変わらない使用期間で壊れてしまうのはなぜなのでしょうか。

実際の修理依頼や革を扱う経験をもとに、「壊れてしまう原因」と「It's/Kitでは」についてご説明させていただければと思います。

「縫う」こと自体が丈夫になるように感じますが、以下のような壊れの原因を生んでいます。

・糸の擦り切れによる壊れ　・糸のほつれによる壊れ　・縫い穴による革の破れ

■ 糸の擦り切れとほつれによる壊れ

革の場合、布などに比べ素材が硬いので、糸が摩擦による消耗を受けやすく糸切れやほつれが起きやすいかと思います。

※また縫製には手縫いとミシン縫いの2種類があり、
手縫いは、太い糸が使えることで擦り切れへの耐久度はあがりますが革の表面からより出てしまうので擦れた時の負荷が大きくなります。改善策として糸のかかる部分にあらかじめ溝を掘り糸を落とし込むことで糸が擦れないようにする技法もあり「職人！」という感じでカッコいいです。
糸が切れた際も一針一針結んでいくように縫っているため切れた箇所からほつれにくいのも手縫いの利点です。

■ 縫い穴による革の破れ

財布の小銭入れやカードポケットの縫い付け部分から破れてしまうことってあると思います。
どうしても一点に負荷がかかってしまうので、丁寧に扱うマインドが必要です。

※織り糸の隙間に針が落ち縫われる布と違い、革は縫うことで連続した穴が空きまさに切り取り用のミシン目が入った状態になります。
2mmを超えているような厚めの革でしたらさほど問題はないと思いますが、製品を薄く仕上げるために内側のポケットなどは革を薄く漉き（1mm以下）使うことが多く、力のかかる部分だと繰り返しの負荷によって革が裂け始めてしまいます。

金具を使用することで機能性は大幅にあがりますが、外れてしまったり衝撃や経年に弱い面があり、革より先にダメになってしまうことが多い資材です。
 

■ 金属ボタン・リングホック・ドットボタンの歪みや取り外れ

繰り返しの使用や衝撃が原因で壊れやすいです。また金具を付けた箇所に負荷がかかり革が破れる原因にもなります。

■ ファスナーの破損

スライダーやムシの外れ・破損、布テープ部の破れが起きます。特にラウンドファスナー仕様のものはカーブ部分に負荷がかかるためか壊れやすい印象です。

最後に革素材自体のお話です。
革の着色方法には大きく分けて2種類があります。1つが顔料仕上げ、もう1つが染料仕上げです。
 

■ 塗料の削れ

染料仕上げが革を染めて着色するのに対し、塗料を吹き付けて表面をコーティングした顔料仕上げは摩擦や引っかきによって塗料が削れ、下地の色が出てきてしまうのです。
味というよりはダメージといった印象になり買い替えが必要になってしまうので、長期の使用には不向きかと思います。

※画像は爪で強く引っ掻いたものです。染料仕上げは光沢がでる程度でしたが、顔料仕上げの方は塗料が剥がれ 下地の少し緑がかった部分が見えてきています。
また、染料仕上げは顔料仕上げと違い、銀面（革の表皮）が顔料で覆われず表にでていて革本来の表情を活かした着色方法でもあります。革らしい経年変化が強くでるのも特長のひとつです。

It's/Kitのナチュラルカラーのヌメ色は、染色も施していない「素上げ」と呼ばれるもので、素材そのままの色味を生かした素材です。

※顔料仕上げにもメリットがあり、不透明な仕上がりになる顔料を使用し革の表皮を覆い隠すのでキズやシワが目立たなくなり製品生産時のロスを少なくできます。また経年変化が起きにくいため、買ったときの状態を保ちたい方におすすめです。

「It's/Kitでは」

今まで起きやすかった壊れの原因をまるっと取り除くことで、通常の革製品に比べ長く使うことができ、もう一段階先の経年変化をお楽しみいただけます。是非、革の限界を見てみてください。

なにかを買おうとした時に「これがなければ良かったのに」と思ったことはありませんか？

僕はよくあるのですが、

・無地だったら良かったのに。
・こんなところにロゴがなければ良かったのに。
・余計な配色やカッティング。

It's/Kitでは余計なことも無駄なこともしていません。

It's/Kitは「必要かどうか」を最大のコンセプトに設計を行ない、
あれもこれもの機能を捨てることで、軽くコンパクトで丈夫な製品を追究しました。

多すぎるポケットも、ロゴも不必要なカーブも、装飾も金具もなく、ただ必要なものを最小限持つためだけに考えられた製品です。

革以外の資材を使わず、組み立て工程は「折る」だけです。平面の状態で届き、特別な工具なしでユーザー自身が組み上げられるようになっています。

It's/Kitの最大の特徴は「折る」だけで終わらせていることです。

縫ったり留めたりすることで、モノを入れた時の安定感は増しますが、前述の通り壊れの原因にもなってしまいます。

※「折りのみ」では縫い代や留め代が重ならないので製品自体を薄く仕上げられるメリットもあります。
 

最小限の機能でとどまることで
It's/Kitは「折る」だけという思い切った工程数で製品を完結させることができています。
中身が飛び出やすかったり、壊れやすいということもありません。

※革の可塑性という濡らした革に力を加え変形させ（It's/Kitでは折り）、その後乾かすことで形を保つ特性を利用しています。タンニンで鞣したベジタブルレザーに強く備わった性質です。

折るだけの利点は他にもあります、それが可動性です。
収納量にあわせて、普通は縫製や金具などで留められている箇所が動くので一時的にたくさん入れたい時も心強いです。

収納量に合わせて「ギュッギュッ」っと手で馴染ませるようにマチを調整することで、蓋が浮かなくなりしっかり閉じることができます。

素材の革は染料仕上げの植物タンニン鞣しレザーを使用しています。
厚みは1.5mm、カラーはナチュラルなヌメ色とブラックの2色展開です。

通常、縫製や金具などにかかるコストを革素材に割り振ることで、お求めやすい価格ながら高品質レザーの使用が可能となりました。
繊維の丈夫な牛革でコシがしっかりした素材です。使用や経年による変化がとても出やすい性質をもっています。

※顔料でコーティングがされていないので、キズや跡はつきやすいですが使用とともに徐々に馴染んで味に変わり、目立たなくなるタイプの革です。

■ 経年変化のイメージ

ナチュラル・ブラック共にオイル未使用での経年変化です。写真ではわかりづらいですが、色が深くなり自然で高級感のある光沢がでてきました。

※「鞣（なめ）し」は剥皮した動物の皮が腐敗したり、硬くなるのを防ぐために加工する工程のことで、一般的に鞣す前を「皮」、後を「革」と言います。
現在主流のクロム鞣しが化学合成の鞣し剤を用いるのに対して、植物タンニン鞣しは天然由来の植物タンニンエキスを使用するため、皮への浸透が遅く時間がかかります。堅ろうで、型崩れしにくく、可塑性に富んでいるのが特長です。

「壊れにくさ」に伴った「機能美」がIt's/Kitのもう1つの特長です。
最小限の機能を実装するために辿り着いたその形は美しさも備え、革本来の良さをより感じられるデザインでもあります。

内角・外角のどちらにも丸みをつけることで、引き裂き・角のヘタり防止効果を持たせています。

名刺入れとしてお使いいただけるカードケース。展開図がロゴにもなっているこちらのアイテムはシリーズの中でもっともシンプルなデザインです。可動性があり収納枚数に合わせて革が動きます。

■ 収納イメージ

■ スペック

無理のない収納可能量：名刺15枚（カードで4枚）ほど
重さ：約18g

名刺入れやカード入れとしてお使いいただけるカードケース。フラップ付きの封筒型のデザインです。鍵や少量の小銭、折りたたんだお札を入れることもできます。

■ 収納イメージ

■ スペック

無理のない収納可能量：名刺15枚（カードで5枚）ほど
重さ：約22g

スイカなどを入れるのに向いているパスケース。シンプルなパスケースらしいデザインです。カードが飛び出しにくく、取り出しやすい設計を目指しました。

■ 収納イメージ

■ スペック

無理のない収納可能量：名刺15枚（カードで4枚）ほど
重さ：約17g

札入れとしてお使いいただける二つ折りの札ケース。札ポケットの他に、カードポケットが2つ付いています。普段使いの財布とは別にセカンドウォレットとしてもおすすめです。

■ 収納イメージ

■ スペック

無理のない収納可能量：お札10枚 + 名刺4枚（カードで2枚）ほど
重さ：約45g

「必要なものだけを」

持つものを整理しながら軽やかに日常を過ごしてみましょう。
デスクトップ画面やデスク周りを整理整頓したような清々しい気持ちになれます。

It's/Kitの組み立てはとても簡単です。
革を水で濡らし、付属簡易説明書の折り順にそって4・5回折るだけで完成します。

オイルが革の油分を補填し革がダメになるのを防ぎ、ワックスが革に撥水性を与え汚れ防止になります。特にナチュラルは汚れが目立ちやすいので、使い始めにオイルワックス塗布をおすすめします。

※折る前にオイルワックスを塗ると、水を弾いて濡らしづらくなるので、組み立て完了後に塗布しましょう。
 

今回はオリジナルのオイルワックスをリターンでご用意させていただきました。
成分は、植物性オイル・植物性ろう・動物性オイル です。

天然成分のみなので肌についても大丈夫（逆に保湿されて良い）！指や布を使って塗ることができます。
写真の容器はイメージで、内容量は10gほどですので4~5回分くらいです。もちろん他の革製品にも使えます。
若干革が濃くなりますので、パッケージに付いている革スワッチでテストしてから製品にご使用ください。

※天然の皮革素材を使用しています。動物本来のシワ・キズ・シミ、鞣しや生産の過程でできた斑点やムラを製品に含みます。革の性質としてご理解、お楽しみいただけたら幸いです。

リターンのお届けは2018年9月末頃を目安に、配送はクリックポスト（ポスト投函）を予定しています。

※多くのご支援をいただいた場合、素材の確保がしきれず生産・配送が遅れる可能性があります。予めご了承いただけますと幸いです。

毎日皮革

メーカーとして皮革製品を専門に企業や他ブランドの企画/生産を請け負っています。今回ご紹介したIt's/Kitの他に、「ピンセットで組み立てるタイプのIt’s/Kit」や「レザーボーラーハット」、前回のMakuakeにてクラウドファンディングさせていただいた「BELT ATTACH」などの製品があります。

ピンセットで組み立てる革財布キットIt’s/Kithttps://www.itskit.com/50parts/

MAINICHI HIKAKU（レザーボーラーハット）https://www.mainichi-hikaku.com/

BELT ATTACH / ベルトアタッチhttps://www.attach.tokyo/

Makuakeのプロジェクトページhttps://www.makuake.com/project/belt-attach/

（最後に）

シンプルなのでなんでもないように見えますが、開発までにとても時間のかかった製品です。是非お試しいただければと思います。
次回に向けて新しい型を設計中です、こんなアイテムがほしいというお声もお待ちしております。

毎日皮革 曽根