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Makuake Magazine

アタラシイを生み出すための挑戦と応援をつなぐメディア

「挑戦とはチャンス」初の音響製品に挑むキヤノン電子の開発者

「挑戦とはチャンス」
初の音響製品に挑む
キヤノン電子の開発者

「あのキヤノンが
ライト&スピーカーを!?」

きっと、多くの人がそう感じたに違いない。
同社のイメージといえば、カメラや複合機。過去にMakuakeで実施し、大ヒットを収めたのもカメラ関係のプロジェクトだ。いわば、“得意分野”である。

異色の製品はなぜ生まれたのか、開発にはどのような想いがあったのか。挑戦をチャンスと捉えて奮闘する開発者の姿、ものづくりの背景をお届けする。

「albos Light&Speaker」開発担当 本多健一氏(キヤノン電子株式会社/HMI事業推進部 課長)、同マーケティング担当 川崎慶太郎氏(キヤノンマーケティングジャパン株式会社/コンスーマ新規ビジネス企画部)、同デザイン担当 古川絵里奈氏(キヤノン電子株式会社/デザイン研究室)

左から「albos Light&Speaker」開発担当 本多健一氏(キヤノン電子株式会社/HMI事業推進部 課長)、同マーケティング担当 川崎慶太郎氏(キヤノンマーケティングジャパン株式会社/コンスーマ新規ビジネス企画部)、同デザイン担当 古川絵里奈氏(キヤノン電子株式会社/デザイン研究室)

「まず、やってみなさい」
“挑戦する風土”に支えられた
開発者の夢

このプロジェクトはどのような経緯で始まったのか。
そもそもキヤノン電子は宇宙事業や植物工場事業など、既存の技術を強みに積極的に新しいものづくりに挑戦しているユニークな会社だ。そのようなチャレンジ精神旺盛な風土の中、「忙しい日常から少し離れ、大切な人と過ごすくつろぎの空間を演出するお手伝いが出来ないか」そんな想いが生まれ、アイデア出しは始まった。
議論を重ねる中で視覚だけではなく五感を刺激するプロダクトを創り出したいという想いが強くなり、「最終的に音と光の組み合わせにたどり着いた」と本多氏はいう。
キヤノンが長年培ってきた高品質のものづくりと本質を追求するデザインを反映させるため、ボディにはアルミの削り出しを採用した。

しかし、音に関する知見は社内には少なかった。
作ったことがない製品は、開発者としてはもちろん不安があったが、キヤノン電子の挑戦を促す風土が後押ししてくれた。学生時代にはよく家電量販店に行って「いつかこんな製品を作ってみたいな」と夢見ていた本多氏は、「異分野でコンス-マ向け製品に挑戦する機会なんてそうないぞ。あの時の夢を実現するチャンスかもしれない!」と奮い立つ気持ちが強かったと振り返る。

「一歩進めば、そこでわかることがある。まずは挑戦する。できない言い訳を探すのではなく、どうやったらできるかを常に考えるようにしています」

albos Light&Speaker

音響機器の製造はキヤノンのイメージからも遠いが、彼自身もまず「何がわからないのか」がわからない状態だったという。デザイナーから上がってきた洗練されたプロダクトイメージは、技術的に実現が難しい構造をしており、懸念点を一つひとつすり合わせて外観を決めた。

スピーカー部に関しては、イチから回路を設計し、基板を組み込んでいく。特性上、組み立てが完了しないと肝心の音は試聴できない。自分が取り組んでいることの方向性が正しいのかわからない中での開発は、これまでのキャリアでも経験が少なかった。悪戦苦闘しながらも初めての試作機が完成した。

albos Light&Speaker

足りない低音を響かせるために。
全てをリセットし、
答えの見えない開発に取り組む

試作機の初めての試聴会。社内のオーディオ好きからビル・エヴァンスの名曲『ワルツ・フォー・デビイ』を勧められ、聞いてみる。開始約10秒で響くはずのウッドベースの弦を弾く音。この一音が感じられないと一刀両断。低音が全く響かず、試作機はボツとなった。ここから改めて開発陣のチャレンジが始まる。

電源回路の構成など全てをイチから見直す。
バッテリーのサイズも変えたため、外観や構造自体も変える必要があり、デザイナーたちと議論したプロダクトデザインも再度やり直しとなった。

「大変だとは思ったんですが、それよりもものづくりへのこだわり、情熱を強く感じました。製品の完成度を高めるためのストイックさがすごく良い」

こう話すのはデザイナーの古川氏。彼女はチームの中で社歴がもっとも浅い。入社前から憧れていたキヤノンのストイックなものづくりの姿勢を感じ、開発者への尊敬を深くしたという。

デザイナーの古川氏。担当した梱包パッケージには環境に配慮した段ボールを採用し、海外進出も視野に入れたデザインとなっている。

デザイナーの古川氏。担当した梱包パッケージには環境に配慮した段ボールを採用し、海外進出も視野に入れたデザインとなっている。

試行錯誤の末にたどり着いた
「理想の低音」と
「妥協なきデザイン」

そこから約半年で新たな試作機が完成した。
会議で試聴する前に、自分でも『ワルツ・フォー・デビイ』をこっそりと、祈るような気持ちで聞いてみる。開始約10秒。鬼門となっていたウッドベースの弦を弾く音がしっかりと、そして確かに響いた。心の中でガッツポーズをし、社内での試聴会にも自信を持って臨むことができた。例のオーディオ好きからも「これは素晴らしい」と評価を受け、まだalbosという名前もないライト&スピーカーが完成した。

albos Light&Speaker

現状に満足せず、諦めなかったからこそ、発見できたこともある。
音響機器は低音を響かせようとすると、スピーカーを置く床やテーブルに振動が伝わり雑音が入ってしまう。土台となるバッテリー部のサイズが大きくなったことで安定感が増し、雑味が消え、よりクリアな低音が響くようになった。

また、毎日側に置いて使ってもらいたいからこそ、ライト部、アーム部、ボディ部の3つの可動箇所は動作にノイズが出ないよう、“スッ”と動いて“ピタッ”と止まる心地よさを徹底的に追求した。何万回もの試験を繰り返しているという。ライトの色にもこだわった。白色と暖色の2種類のLEDを搭載しており、読書灯のように実用使いとしても、間接照明のように雰囲気のある空間づくりにも活用できる。

機能とデザイン、双方の強みを生かすため製品の最終工程は人の手で組み上げることも決めた。生産現場の採算性や生産性を考えると躊躇しそうになるが、チーム一丸となりおもしろがって取り組んでいる。工場を案内してくれた生産担当のスタッフも「応援購入いただいたサポーターの皆様に早く製品をお届けしたいですね」と笑顔で語っていた。

albos Light&Speaker

マーケティング担当の川崎氏は、完成した製品を手にメディアを回った。
「スピーカーの傾きによって音色が変わっておもしろいね」などと、オーディオに詳しい記者たちの反応を見て、商品への自信を深めたという。しかし、実際に応援購入してくださるサポーターは音を聴かずに判断することになる。Makuakeプロジェクトを通じて、音質を含めたalbosの体験がちゃんと伝わっているだろうか?公開して応援購入数がどんどん伸びていくのを見てその不安は吹き飛んだ。

「皆様から『キヤノンらしさ』への期待を感じている。それらを守りながらも、変わり続けていくメーカーであることを世に示していきたい」

開発者からバトンが渡され、川崎氏にとっての新しい挑戦の幕が上がった。

albos Light&Speaker

挑戦とはチャンス。
自分が自分を信じていく根拠になる

本多氏は新しい分野に挑戦できる機会があること自体、開発者として幸せなことだと話す。
失敗もしながら、最終的に製品を世に出せたことは、未来の自分が己を信じる原動力になる。「あの時もできたからやれるんじゃないか」、そう思いながら新しい仕事や課題に向き合えることが成長であり、挑戦の醍醐味だと感じている。

詳細はまだ話せないが、同社はすでに次なる「albosシリーズ」の商品企画に取り組んでいる。成功と失敗、どちらも経験することは間違いないが、今回の「albos Light&Speaker」の経験を生かし、挑戦していきたいと明るく笑った。

執筆・編集:田中絢子、米谷真人撮影:青木一成

※本文中の写真は全て撮影時のみマスクを外しております

執筆・編集:田中絢子、米谷真人
撮影:青木一成

緑豊かな場所にある赤城工場。ソーラーパネルを設置し、環境に配慮したものづくりを行なっている。(写真提供:キヤノン電子株式会社)
緑豊かな場所にある赤城工場。ソーラーパネルを設置し、環境に配慮したものづくりを行なっている。(写真提供:キヤノン電子株式会社)

緑豊かな場所にある赤城工場。ソーラーパネルを設置し、環境に配慮したものづくりを行なっている。(写真提供:キヤノン電子株式会社)